:

好きなものを馬鹿にされたと感じた時の状況について

プライベートでもSNS上でもよく見かける光景。大好きなものを否定された、貶められた、馬鹿にされた、なんでもいいけど、とにかく自分の中で高位に位置している何かを、その自分の基準以下に下げられたとき。当たり前のように人は怒る。そこに正当性、説得力、事実すらあろうとなかろうと怒る。怒るのがダメなわけじゃない私なら必ず怒る。

 

たとえば、ミステリ(推理小説)にトリックなんて必要ないよ。ただの付属品です。大事なのは人間ドラマ。そんな意見があったとする。

たとえ※あくまで個人の意見デス、初心者向けの講座デス、なんて但し書きがあったとしても、その個人の意見が間違っていると思ったら怒るし、初心者向けにしてももっと違う書き方がある、と思ったら怒る。

「怒る」と言っても、あからさまに「お前は馬鹿か、全然違う!」と激高する人もいるし、的確に問題っぽい個所を突いて「言いたかったことはわかるけど、どこどこが良くない」と指摘する人もいる。また、口先では「へえ~そういう意見もありますねえ」なんて言いながら内心「クソが」と思う人もいるだろう。

つまり自分と違う意見に面したとき、真正面から対抗する激情型、自分の物差しで異論を論破しようとする正義感型、そして自分が自分の意見を持っていたらいいや、と戦いを避ける無関心型に3つに分けられるということだ。ここまでならなんら問題はなく、発信者にもそれに反応する人間にも罪はない。多様な反応に発信者がどう反応するかが肝心だ。

一応わかりやすくするために、発信者を「賊軍」、その発信に嫌悪感を示すのを「官軍」とする。この場合、官軍の多くは古参かつ歴戦の兵で構成されており、賊軍は新進気鋭の人材、ということにする。

賊軍は、自らの意見を胸を張って主張し、決して曲げることはない。なぜなら持論には大前提があり、行間を読めば何を言わんとしているかは、誰しもが理解できるはずだ、と思っており、そもそも個人的な意見であるからして戦おうとする意志すら最初から持ち合わせていないからだ。

一方官軍は、前述の3つの軍に分かれ各自で勝手に攻撃を始める。

やいこら、(個人の意見とはいえ)それは違うぞ君。おいおい、(何を言わんとしているかはわかるけど)コアなファンから怒られるぞ君。なんだかモヤモヤ(正直言ってナンセンスだと思う)。

ここで賊軍がとるべき選択肢は四つ。

  1. 誤解を招く表現だったことをお詫びいたします。しかしあくまでこれは個人の意見であり、異なった意見をお持ちの方を傷つけ、毀損する目的はございません。
  2. 謝るつもりはありません。なぜならこれは個人の意見です。撤回も訂正もいたしません。ご随意に。
  3. これだから老害は困る。個人の意見だっつってんのがわかんねえのか老眼かよ。
  4. 無視。

3が禁じ手なのはわかるとして、最も有効的なのは1だろう。自分とは違う意見を先に賊軍が受け入れてしまえばいい、そしてそれを大々的にアピールするだけでいい。

「私は官軍の皆さんの気持ちもよくわかります。そのうえで、戦っているのです。これ以上無益な戦いはやめましょう。」

まさに聖女。官軍は剣を鞘に納めるしかない。これ以上暴走する輩はすべて無視でいいのだ。

逆に2を選択する場合、もう1には戻れないことを重々理解しておいたほうが良い。4を選択する心構えがない限り、全面戦争が始まる。

しかし、この場合、問題の本質が見えてきたり、新しいアイデアが浮かぶこともある。ミステリに必要なのはトリックか人間ドラマか。個人的には面白きゃなんでもいいのだが、トリックなんてほとんどなくて人間ドラマ中心の傑作ミステリってなんだろうな?とか、アノ作品は人間ドラマがスカスカなのにトリックは一級品なんだよな。みたいに、尖った作品に出会うきっかけになることもあって、収穫がないわけでもない。

しかし懸案事項は、熱くなり過ぎて前述の3の禁じ手が出てしまう危険性が高まること。特定の個人の属性を直接攻撃したり、挑発行為を繰り返したりしだすと、収拾がつかなくなる。

最初は単純な異なった2つの意見のぶつかり合いだったのにもかかわらず、その違いの種類が増え、一つひとつの違いに応じた戦い(官軍・賊軍)が発生し、複雑化してしまう。

 

こんな戦いを見ていて、いつも思うのだが、「自分が絶対的に正しい」と思うときほどクールになるべきだと思う。

「絶対的に正しい」なんてことがあるのかはさておき、仕事で間違っていることを注意するとき、ミスを指摘するとき、不親切な対応にクレームを言うとき、とにかく正しいと思うことを行動に移すときはいつでも冷静にいたい。これはSNS上でも家庭でも職場でもいつも念頭に置いている。

 

ただこれにも問題があって、ものすんごくクールに指摘したその文面がまんま煽りになっちゃうこともあって、それは俗に「冷たい炎」と言われることもあって戦火を広げたりするのだが、それはまた別のお話。